どの政府にも、たいてい“お荷物”がある。何十年も前の古いコードで動き続ける、巨大なシステム群だ。作り直すには莫大な費用と、気の遠くなるような年月がかかる——だから、みんな手をつけられずにいる。カナダのアルバータ州は、そこにAIを投入した。20億ドル(約3,000億円)規模・100年がかりとも言われた刷新作業を、AIで一気に進めようというのだ。しかも、その“やり方”まで、他の政府のために無償で公開した。
01何が起きたのか
Meridian SourceやThe Logicなど、カナダの複数メディアが報じている。アルバータ州は、Anthropicの「Claude」を使ったAIツールで、何十年分もたまった行政の古いシステム(レガシー)を解析し、近代化に着手した。対象は、1,280個のアプリケーションと3,400のコード群。これを従来のやり方で刷新すると、約20億ドルの費用と、100年超の時間がかかると見積もられていた。州は、AIによってこの時間とコストを“95%削減”することを目標に掲げている。
02“自分たちだけのもの”にしなかった
この取り組みで印象的なのは、アルバータ州が成果を“抱え込まなかった”ことだ。州は、政府システム近代化の手法をまとめた21本の技術文書「Velocity White Papers」を、ソフトウェアツールや実装ガイドとともにオープンソースで無償公開した。つまり、他の政府が同じことをやりたいなら、自由に使っていい、というわけだ。
03つまり日本の読者にとっては
まず、これは“AIの誇大宣伝”ではなく、地に足のついた実例だ。派手な生成AIの話題の陰で、AIは「何十年も放置されてきた古い行政システムを、桁違いに速く作り直す」という、地味で巨大な問題に効き始めている。この“レガシー近代化”こそ、AIの本領のひとつと言っていい。
そして、日本にとっては刺さる話のはず。日本は“レガシーIT大国”——古いコード(COBOLなど)で動く行政・金融システムが山ほど残り、その刷新は長年の課題だ。アルバータ州の一件は、そこに現実的な突破口があることを示している。AIを、古いコードを読み解き、書き直す“翻訳者兼職人”として使う——この道筋は、日本の役所や大企業にとっても、大いに参考になる。
ただし、冷静な注意も要る。税・医療・年金といった“止まってはいけない”公共システムを、AIで作り直すのは、速ければいいという話ではない。正確さ、セキュリティ、そして「AIが直したシステムに不具合が出たら、誰が責任を持つのか」——ここには、人間による厳格な検証と説明責任が欠かせない。スピードと堅牢さの両立が、公共システムの絶対条件だ。だからこそ、アルバータ州が“手法を開いた”ことの価値は大きい。みんなが検証し、学び、改善できるからだ。速く、賢く、そして開かれた形で——日本もこの成功例から、大いに借りるものがある。